今日は北海道へ移住して違う国へ来たのかな?
と思うくらいに驚いたことをお話しします。
そして自分を取り戻そうとしたお話も。
時は2008年、平成20年の北海道日高町。
都会とは異なり待機児童という言葉も存在しないのどかな街。
子供達を保育所に通わせ、いろんな刺激を受けてほしいという想いから、パートで働くことを決意した31歳の頃。
パート勤務の初日の持ち物は、
エプロンと三角巾でした。
ずっとエステサロンで白衣を着ていた私とは別人のような仕事服。
三角巾を巻くのは学生ぶりで、正解が分からず前髪を出したりなおしたりと自宅で練習して向かった先はお寿司屋さんです。
時給は667円。
その頃の北海道の最低賃金です。
目を疑う賃金。
大阪のエステサロンでは、復帰してパート勤務してくれないかとオファーを頂いていた時給が1200円だったので、約2分の1なのです。
私はもはや違う国に来たということにして働き始めました。
車で10分ほどの隣町にある『ししゃも寿司』が有名なお店でパート勤務が始まりました。
キラキラとしたししゃものお寿司を求めて、バイクやキャンピングカーで旅をする方々が
多く訪れる人気のお店です。
職人さんとパートさんが忙しく動く厨房で、一番最初の仕事は大きな大きなお釜で炊くご飯を洗うこと。
重すぎて持ち上げられず、
洗った水も捨てれない。
でも助けてもらうわけにもいかない。
とっさにとった行動はとにかく手で水を高速ですくって、どうにかお米を洗っていたという何とも言えない苦いような笑える思い出です。
慣れるもので、両足でふんばり、腰を入れて持ち上げるという技を手に入れて立派なパートのおばちゃんになりました。
月日を追うごとに、ししゃもの選別や、
イカの塩辛作りをさせてもらえるようになりました。
ししゃもはオスとメスでかなり味わいが変わるので、選別は必須の仕事。慣れた頃には仕分け職人になっていました。
大将が毎朝仕入れてくるイカをイカ墨とゴロ(内臓)に分けるのもパートの仕事。
ししゃもやイカを触るたび、私たちは命を頂いているんだという事を感じずにはいられない職場でした。
15時半に上がり、保育所にお迎えに行くと講堂で遊びまわっていた笑顔の娘たちがピンクのキティちゃんのリュックと小さな靴を履いてでできます。
急いで帰り、お風呂を沸かし、夜ごはんの支度を始める日常。
充実した日々でしたが、どうしてもお寿司屋さんでずっとパートでいることは、もはや自分じゃなくなると思い始め、1年働いたら辞めたいと思うようになりました。
お世話になっているので、とにかく1年はやり切りたいという思いでした。
周りの人たちや主人には、他に働くところなんてないよ、もったいないよと言われましたが、私が私でいるためには本当にしたいことを始めなければと強く感じたのです。
私は常に学びたいし、成長したい。
お寿司屋さんのパートで何かを極めても未来につながらない。
子供を育てるのが最優先事項だとわかっていても、
誇りや自信を持って喜びを分かち合える仕事がしたい。
娘たちの自慢の母でいたい。
現時点からゴールの間を埋めるにはどうすれば良いか?
考えて考えて行動するしかありません。
私のスキルは当時、日本エステティシャン協会の資格のみでした。
観光地なので、ホテルでエステプランを提案するのはどうだろう。
すぐさまプランを作り、車で15分ほどの太平洋側にあるオーベルジュホテルへ電話を掛けてみることに。
もちろん門前払いでした。
普通に考えて、怪しい関西人のエステができるという女を受け入れてくれるはずがありません。
けれど、私の意思は固い。
必ずホテルのゲストの方々に喜んでいただけると確信し、ホテルのサービスに貢献できるプランを作れると信じて何度も通い、ついに支配人さんとお話ができるように。
ホテルにとって、どのような価値を与えれるかだけにフォーカスしてお話をし、受け入れてもらえることになりました。
そこから提案書を詰め直して、3ヶ月後にはエステプランを組み込んだ宿泊プランを作ってもらえるように。
エステプランがじゃらんに掲載された時には、心躍りました。
オーベルジュなので北海道の美食を求めて、
各地からセレブが来てくださるヨーロッパ調の大きな大きな海沿いのお城のようなホテル。
素敵なマダムたちにエステの施術を施すという日常を叶えました。
スタッフの方々がじゃらんへのエステプランへの口コミを沢山見せてくれながら、一緒に喜んでくれるようになりました。
行動しか自分の状況は変えれない。
あの頃の私の気持ちは今も変わらず、常に思考と行動を繰り返しています。
自分らしい服を着て、自分らしい仕事ができるようになった日のことは今でも清々しい思い出です。
ホテルではスイートルームをエステルームにしてくれていました。
ソファでカウンセリングをして施術へ。
このホテルは数年後に惜しまれつつ閉館しました。
懐かしい光景です。
